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こわいもののはなし(擬人化リヴリー小説) [擬人化小説]

kuro0-28.jpg
素敵な写真は素材サイト君色さんからお借りしました。

いつもお世話になっている&敬愛するまひろさん宅、夜刀彦(やとひこ)さんをお借りしました!

宵助ぼっとと夜刀彦さんぼっとのやりとりがあまりにも胸キュンで、書かせて頂いてしまいました。
いつもお借りしてしまって申し訳ありません…!
大好き!!

ssは続きから↓




 大型のモンスターの羽音や足音、悲鳴、雷の音。
 そんなものが、遠くから届いたり、急に近くで弾けたりする。

 赤黒く染まったモンスターツリーだけが、己の中で起きる惨劇に、無関心に葉を揺らしている。この森にとっては、モンスターとリヴリーが織り成す地獄絵図など、日常なのだ。

 宵助は茂みの中で、その日常の中で死する瞬間を、震えながら待っていた。



こわいもののはなし



 乱戦に次ぐ乱戦で、飼い主との通心が切れた。
 酷い霧が辺りを覆い、出口が分からなくなった。

 その最中、共に行動していたハンターのパキケ種の少女を庇い、ジョロウグモの毒液を大量に浴びたのだ。
 時間が経つにつれ、身体は麻痺し、目も見えなくなった。

 ハンター達のまとめ役は、宵助が技を唱えられないほど疲労したのを確認すると、ウルパコ種の治癒士をその場に置いていこうと提案した。

 要は死ねと言われたのである。

 宵助も、このままでは自分はおろか、他のリヴリーにまで命の危険が及ぶと分かっていたので、笑顔で承諾した。

 目も見えず、身体の痺れは取れない。
 いつ見つかり、食い殺されるか分からない。

 ハンター達と別れてから、どれくらい時間が経ったのだろう。
 この場に隠れ、数分しか過ぎていないようにも、半日過ごしたようにも感じる。

 時間の間隔が掴めない、闇に包まれた世界。
 泥だらけの膝を抱えて、息を潜めていると、酷く孤独なように感じた。

「……だいじょうぶ、だいじょうぶよ。食べられたって、きっと、痛いのはすぐ終わるわ」

 怪物の森で治癒活動をする以上、いつかは死ぬ身だ。
 頭や腕や足や腹を喰い散らされ、血や臓物を大地にぶちまけるのだろう。
 そうして醜い死体を晒してから、0と1の電子記号に戻るのだろう。

 死ぬのは怖くないが、友だちに会えなくなることだけが、無性に悲しい。

 ふいに、脳裏に、桜の花弁が舞った。

 しばらく前にツノツキウリュー種の青年と、花見をしたのだ。
 アリスブルーに輝く春の空、天を覆い、零れるように咲く桜花、そよ風に揺れる、やわらかな草原。

 桜の咲き乱れる絶景を前にして、きれいだろう、と得意げに笑った顔が、太陽のように眩しかった。

「オアアアアーーーッ!!ギャアアアアアアアアッッ!!」

 甘やかな回想は、耳をつんざくような、モンスターの断末魔に掻き消される。
 ぎゅうっと自分自身を抱きしめた瞬間、聞き覚えのある声がした。


「もう、お仕舞か?」

「夜刀彦、さん……?」

「宵助?」

 名前を呼び返された。
 間違いない、夜刀彦である!

「ねえ、その声は夜刀彦さんでしょう?」

 手探りで茂みを分け、顔を出す。
 暗黒の世界で、笑顔を向けると、その気配は息を呑んだ。
 爛れた瞼が醜悪だったのかもしれない。
 
「今、目をやられて見えないのだけど、大好きなお友達を間違えるはず、ないわ」


 それでも宵助の心は躍った。
 今、逢いたいと、考えていた友達に出逢えるなんて!

 あの時の空の青さ!
 あの時の桜の美しさ!
 あの時の清(さや)かな風の心地!
 夜刀彦が連れて行ってくれたあの場所では、確かに世界は輝いていて、全てのものが祝福されていた。
 道具である、自分でさえも!
 
 彼が与えてくれた、輝くもののすべて。
 今しかもう、返せる機会は無い。

「随分奥まで来てしまったのね。……ねえ、夜刀彦さん。怪我はない?」

 依然として目は見えないが、技の力は、徐々に回復しつつある。
 一度なら、/cureが撃てるだろうか。
 治癒技が使えなくなっても、薬を塗り、包帯を巻くことならできる。
 己は生き残れないだろうから、手持ちの薬を託してもいいかもしれない。

 宵助は思わず微笑んでいた。
 ここが怪物の森の奥地で、夜刀彦がモンスターを狩る者であり、宵助が治癒士である以上、彼の役に立てるという確信があった。

 安らかな心地だった。
 幸福とさえ言っていいかもしれない。

 だが、差し出した手は、驚くほど強い力で掴まれた。

「…宵助…、…!くそっ、治癒はどうしたんだ…」
「ええ。少し、待って。/cure 夜刀彦 ああ、よかったあ。成功ね」
「違うッッ!!」

 鬼気迫る大喝。
 治癒の技をかけたまま、宵助の呼吸が止まった。

「とにかくこっちに来い!森から出るぞ!」

 聞いたことのない、怖い口調。
 乱暴に手を引かれ、茂みから飛び出す。

 駆ける。

 駆ける。

 暗闇の中を駆ける。

 逞しい腕の主が、自分を助けようとしてくれているのだと分かって、宵助は酷く混乱した。

 時折、暗闇の先で、太刀が弾けるように何かを斬る。
 麻痺の抜けない身体に、両断された死骸がぶつかる。
 盲の負傷者を連れて、不自然な体勢になってさえ、その太刀筋は大胆で鋭いらしい。

「はあっ、はあっ」
「宵助、足まで……!」
「大丈夫よ、ごめんなさい、夜刀彦さん、ごめんなさい」

 夜刀彦の苛立たしげな声に、宵助は咽ぶように応えた。
 もつれる足が憎い。
 どかどか鳴る心音が煩い。

 ――怒らせてしまった!手を煩わせてしまった!
 夜刀彦を窮地に立たせている!
 今まさに、役目を終え、使い捨てられるはずだった道具の自分が!
 
 声をかけなければよかった!
 あのまま消えてしまえばよかった!
 そうすれば、夜刀彦を怒らせてしまうことも、危険に晒すことも無かった!

 大好きな友達に、嫌われてしまうのは、死ぬより怖い。
 大好きな友達が、死んでしまうのは、何より怖い。

 見えない視界が、ぐるぐると回る。

 夜刀彦は優しい男である。
 死にかけた友だちを放っておけず、苛立ちながらも走ってくれるのだろう。
 申し訳なさばかりが募って、息が苦しい。

 大きな羽音の後、夜刀彦の呻きと共に、熱いものが顔にかかって、宵助は悲鳴を上げた。
 鮮血である。
 視力の戻らない瞳から涙が溢れる。

「ぐ、う……ッ」
「夜刀彦さん!もう、いいの!ごめんなさい、置いていって!」

 血でぬめった手を握り直された。
 強く腕を引かれる。

 金属が肉を断つ音が耳の横をかすめる。
 一瞬、スズメバチの羽が宵助の頬を打ち、遥か背後に消えて行った。

「ふー……っ、ふー……っ」
「大丈夫?大丈夫?夜刀彦さん。傷は、浅いの?」
「……こっちだ、宵助!」
「ごめんなさい、離して。ねえ、切れなくなったハサミは捨てるでしょう?置いていって。治癒士も同じ。捨てていいの。おねがい、手を」
「黙ってくれ!」

 砕ける程に力が込められた手は、震えていた。

 言葉より雄弁な手のひらは、焼けるように熱い。
 ――宵助の喪失を、友達の喪失を、心の底から恐れてくれていた。

 声さえ出なくなった宵助は、夜刀彦に導かれるまま、走り、走り、怪物の森から生還した。








「ここまで来れば、安心だ。通心が繋がるまで、ゆっくり休んでくれ」

 瑞々しい草の香り。
 風が頬をゆるやかに撫でていく。
 無数のカエルの鳴き声。

 どうやら、夜刀彦の住む世界の方へ出たらしい。

「さっきは怒鳴って悪かったな。でも、もう、捨て置けなんて言うんじゃないぞ?」

 笑ってくれているのかもしれない。
 残心後、太刀を鞘に仕舞った夜刀彦からは怒気が薄れたようで、宵助の身体の力が抜けていく。

「……ありがとう、夜刀彦さん」

 ジョロウグモの毒が薄れてきたようだ。
 ぼんやりと、視界に景色が入り込んでくる。

「夜刀彦さんに助けてもらった命、大切にするわ」

 満天の星空の下、夜風に焔色の髪をなびかせて、血に濡れた夜刀彦が佇んでいた。
 桜の花の下で見た風景とは違った、切ない美しさがあった。


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