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あなたの見る世界(リヴリー擬人化小説) [短編小説]

家の近くの藤がとても綺麗でしてね…

藤.jpg

いつもお世話になっている&敬愛するまひろさん宅、夜刀彦(やとひこ)さんをお借りしました!

宵助のピンチを、夜刀彦さんに救っていただきました。へへっ☆

もー、笹木、夜刀彦さんが大ッ好きでしてね!!
知れば知るほど、魅力的なキャラクターなんです…!
笑顔のかわいい男の人ってのは…素敵ですよね…!!

絡みSSは、追記にて公開しております。 
 
.       .


  昼なお暗い怪物の森。

 黒い大地は血を吸い常に湿っており、大気には鉄錆た臭いが充満する。天を覆うように茂ったモンスターツリーの合間から、まるでスポットライトのように点々と、陽が射しこんでいる。

 大型モンスターが徘徊する森の中、大木の下の茂みに身を伏せて、息を殺す2匹のリヴリーがいた。泥と血で全身を汚した、夜刀彦と宵助である。

 ううん、ううんと、スズメバチの羽音が上空を旋回していた。

 宵助の銀色の髪はほつれ、服は所々が破れ、豊満な胸に繊維が細い縄めいて食い込んでいる。両手で押さえている腹部の傷からは、じわじわと赤黒い染みが広がり、太腿、白いふくらはぎへと、太い血の筋が伝っていく。かたかたと震えながら、歯を食いしばり、耳を澄ませ、茂みの向こうの闇を見つめている。

 そんなウルパコの少女の肩を、夜刀彦の左手がやんわりと包んでいた。持ち主の心そのままに、あたたかく、大きく、ひたすらに優しい手である。笑みを消した精悍な表情で、片手に抜身の大刀を構え、モンスターの気配を探っている。全身に打撲傷ができ、上等な羽織は擦り切れ、野袴には泥が飛び散っていた。

 これ以上の戦闘はできそうにない。二人とも、満身創痍である。

 血を吸った大地は、害でもあり、恵みでもあった。
 立ち込める汚臭により、血の匂いが消えるのである。

 ぐるぐると回っていたスズメバチの羽音が遠ざかったのを確認して、宵助は肩の力を抜いた。ころりと転がった涙を、血で汚れた手で拭う。

「夜刀彦さん。さっきは危ないところを助けてくれて、ありがとう」

 組んでいたチームが、運悪く大型スズメバチの巣にぶつかったのだ。息をする間もなくレベル15以上のスズメバチが巣穴から次々と飛び出し、その場は阿鼻叫喚地獄と化した。ある者は串刺しにされ、ある者は喰われ、仲間達の頭が、目玉が、髪の毛が、尻尾が、耳が、腕が、足が、はらわたが、脳が、モンスターツリーに飛び散り、枝に垂れ下がっていた。

 宵助は混乱の中を逃げ回り、来た道を走り、生き残った仲間を庇うため、囮となった挙句、追っ手に突進と同時に横腹を食いちぎられ、岩に激突し、動けなくなった。

 血反吐を吐き、痙攣する腕を叱咤して身を起こすと、己の腕ほどある太い針を、ぐっと喉元に突き付けられていた。
 スズメバチの巨体。
 鉛色の針。
 羽の向こうに広がる無限の闇。

(これが私の最期に見る、光景なの?)

 針に貫かれた後、生きたまま八つ裂きにされ、蜂の子の餌にされるのだろう。
 ――それこそが、怪物の森で生きるリヴリーの、相応しい死に様である。
 宵助は覚悟を決めて、そっと目を閉じた。

 刹那、
 『お嬢ちゃんッ、大丈夫か!』
 スズメバチの羽音を切り裂いて、夜刀彦が飛び出してきたのだ。
 山吹色の羽織を翻し、一太刀でスズメバチの腹部を断った青年の背中。
 逞しく、分厚いそれに庇われて、少女の頬に熱い涙が流れた。

 そうして、一体のスズメバチを倒した夜刀彦は、更なる追っ手を撒くため、宵助の手を取り、茂みの中へと隠れたのだった。

「今回は本当に、もうだめかと思ったわ」
「いや。お嬢ちゃん、それより手当てを」
「ああ、そうね、ごめんなさい」

 スズメバチが遠ざかり、落ち着きを取り戻した宵助は、いつものように明るく笑って、夜刀彦の胸に手を置いた。

「/curemax 夜刀彦」

 宵助の手のひらから広がった仄かな光は、夜刀彦の全身を包み、戦闘で負った傷を瞬きひとつするうちに癒してしまった。

「私ね、兄様のお友だちから教えてもらって、治癒最大の技ができるようになったの。一度で、どんな怪我も治せるようになったのよ。これでもっと、あなたの狩りの応援ができると思うわ」
「違う」
「え?」
 底冷えのするような夜刀彦の低い声に、眼を見開いた。
 ――何か、失礼なことをしてしまっただろうか。

 怯えたように小さくなった宵助の手を取って、夜刀彦は心底苦しそうに、
「俺じゃない。お嬢ちゃんの怪我の手当てをしてくれって、言ったんだ」
 そう言った。

「あ……」
「こんなに血が出てるじゃないか」

 宵助の腹部から溢れる血を前にして、夜刀彦は泣き出す寸前の子どものような表情をしている。

 治癒士が己の怪我を放置し、ハンターの怪我を優先して治すのは当たり前のことである。
 むしろ治癒士の怪我の治療は、最も必要の無いことである。術を唱える口さえあれば、他はどうなっていたって良いのだ。

 宵助の生きる世界と夜刀彦の目に映る世界は、違うらしい。
 それを指摘して、余計な薬や包帯を使わず、この場を立ち去った方が良いのであろう。

「ええ、分かったわ。ごめんなさい、夜刀彦さん」

 それでも、宵助は、夜刀彦のやさしさが嬉しかった。
 ほっとした彼の顔を見て、いつか、怪物の森の外で、ハンターの『当たり前』が存在しない場所で、夜刀彦の見る世界を自分も見てみたいと、淡い願いを持った。




.おまけ

「宵助よ」
「ん?」
「私の名前よ。宵闇の『よい』に、助けるの『すけ』って書いて、宵助っていうの」
 止血剤を塗りながら、宵助は自然を装い、頭の中で何度も繰り返した言葉を放った。

「よい、すけ?」
「ええ、ちょっと男っぽい名前だし、治癒士に名前なんて、いらないと考える人も多いのだけど……」

 夜刀彦は目を丸くして、それから思わず惚れ惚れする様な笑顔を見せて、
「宵助!いい名前だな!」
 と言った。
 俯いた宵助の耳がじわじわと赤くなる。

「その……夜刀彦さん」
「何だ、宵助」
「もっと、呼んでくれないかしら。……本当はね、ずっと、ずっとね、名前、呼んでほしかったの」
「宵助って?」
「うん」
「宵助」
「うん」
「宵助!」
「うん……ありがとう、夜刀彦さん」

 息が止まりそうに幸せだと、林檎のように赤くなった頬を両手で包みながら、宵助は夜刀彦に笑顔を返した。



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まひろ

笹木さん、またもやこちらでもコメント失礼します…!
(いろいろとツイートで吐き出しきれなかった気がしまして…すみません…)

笹木さんに書いていただく夜刀彦って、どうしてこんなに男前なんでしょうか。
精悍な、と表現していただいて思わず飼い主は照れてしまいました…自分ちの子なのに…///
木陰で息を殺してスズメバチの様子をうかがう満身創痍の宵助さんと夜刀彦、可哀そうなのだけれど
絵になるなぁ…と思ってしまいました。
きっと左手で抱いた宵助さんの肩はつめたく冷えているのだろうな。
夜刀彦は体温自体割と高いイメージなので、あったかい、って書いていただけて、
思った通りでうれしかったです。

自分の傷をまったく省みない宵助さんに対して、今回夜刀彦は初めて、少し憤りや悲しさや
いら立ちを感じたのだろうなと思います。
夜刀彦は怪物の森ではないところで生きる女の子も知っているから、その子たちと同じように
可愛らしくて笑顔の素敵な女の子なのに、なぜ、どうして、って。
宵助さんと夜刀彦の世界のすれ違いが、もう、せつないというか、愛しいというか、も、萌えます…
…本当にもだえます。

そしてすみません、宵助さんのお名前、夜刀彦がもう伺ったことがあると思ってしまって
いたのですが、前回書いてくださった出会いでは伺っていなかったですね…!
勘違いしていて意味不明なリプライをあちらでしてしまったと思います、すみませんでした…!><;
お名前を伺えて、宵助さんの笑顔を見れて、この日のことも夜刀彦の心に強く残ったんだろうなと思います。

宵助さんとまたお話しできる機会をくださって、本当にありがとうございました。
自分で考えている通りの夜刀彦を表現していただけて、飼い主冥利につきます…!
またこれからも、不肖の息子と仲良くしてやっていただけたらうれしいです。
長文になりましてすみませんでした…!;
by まひろ (2013-05-29 22:06) 

笹木

>まひろさん
ひいい!こちらにも嬉しいコメントをありがとうございました!

夜刀彦さんの明るさと、内面から滲み出る心の温かさが好きだなあと思っているうちに、こんなSSを書いてしまっておりました…!本当に…いい男性ですよね…!大好きという気持ちを!これでもかとこめて!書かせていただきました!

今回のSSでも前回のSSでも出してしまったように、笹木も夜刀彦さんと宵助の価値観の違いが愛おしくってたまりません…!そしてそれを宵助は嬉しく感じていて、夜刀彦さんは悲しんでるってのがまた…!

名前呼びの件、前回のSSでは伝えてなかったのですが、確か以前、名前を教えたらどうなるかな~ってネタを、ツイッターでお話したのですよね!その時に、「呼び捨てで呼んでもらえる」とのことだったので、今回のSSでも、そのようにさせていただいてしまいました><

こちらこそ、宵助とまた、お話してやってくださいませ!夜刀彦さんを書かせていただいて、幸せでございました…!ありがとうございました…!よろしければ、また書かせてくださいませ!

by 笹木 (2013-06-04 21:34) 

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